セットボリュームと筋肥大 ― Schoenfeld・Pelland 2025 が示す「有効ボリューム範囲」の現実

セットボリュームと筋肥大 ― Schoenfeld・Pelland 2025 が示す「有効ボリューム範囲」の現実 フィットネス

「筋肥大には週何セットやればいいのか?」 ― ジムに通う方なら誰もが一度は考える疑問です。「週 10-20 セット」という目安が広まっていますが、2024-2025 年の最新研究はこの数字を「固定の最適範囲」ではなく、「個人差・回復力・種目選択で大きく動く範囲目安」として扱うことを示しています。本記事では、Pelland らの 2025 年メタ解析 (Sports Medicine) と Refalo らの 2024 年「フェイラー必須」否定研究を踏まえ、現時点での科学的コンセンサスを整理します。

1. 「ボリューム」とは何か — 定義の整理

レジスタンストレーニングにおける「ボリューム」は、文脈により少しずつ意味が異なります。代表的な定義:

  • セットボリューム: 1 つの筋群に対して週あたりに行うハードセット数 (ウォームアップは含まない、RIR 0-2 程度の高強度セット)
  • トータルボリューム (Volume Load): セット × 回数 × 重量 (kg) の総和
  • 近接限界度 (Proximity to Failure / RIR): ボリュームではないが、各セットの強度を表す指標

本記事では 「セットボリューム」 (週あたりのハードセット数) を主に扱います。これが筋肥大研究で最も多く使われる指標であり、Schoenfeld 2017/2019 のメタ解析以降の議論の中核だからです。

2. Pelland 2025 メタ解析 — 用量反応はあるが「線形ではない」

2025 年に Pelland らが Sports Medicine 誌に発表したメタ解析 (DOI: 10.1007/s40279-025-02344-w) は、セットボリュームと筋肥大の用量反応関係を最新データで再評価しました。主要な結論は以下のとおりです。

  • 週あたりセット数の増加は、概ね筋肥大を増加させる傾向が確認された
  • ただし用量反応関係は線形ではなく、ある時点から収穫逓減 (diminishing returns) が生じる
  • 筋力向上の用量反応とはパターンが異なる (筋肥大の方が高ボリュームで利益が続く)
  • 「週 20 セットで明確な plateau」という固定的な結論は支持されない

つまり、「週 10-20 セット」は今もヒューリスティック (経験則) としては有用ですが、「全員にとっての最適範囲」ではなく、個人差を考慮した出発点と理解するのが妥当です。

3. 頻度 vs 総ボリューム — どちらが効くのか

「分割法 (部位ごとに別の日に鍛える) vs 全身法 (毎回全身)」の論争は長く続いてきました。Ramos-Campo らが 2024 年に Journal of Strength and Conditioning Research 誌に発表した研究 (DOI: 10.1519/JSC.0000000000004774) は、総週間ボリュームを揃えれば、頻度 (週何回その部位を鍛えるか) の差は小さいという結論を示しています。

実用的には:

  • 週合計のセット数が同じなら、それを 2 回に分けても 4 回に分けても、筋肥大効果は概ね同等
  • 頻度は「1 回あたりの疲労管理」「生活スケジュールとの整合性」「回復時間」を考慮して決めるとよい
  • 仕事で忙しい方なら週 2-3 回の全身法でも、ボリュームを確保できれば筋肥大効果は得られる

4. フェイラー (限界まで) は本当に必要か — Refalo 2024 の重要発見

「最大の筋肥大には毎セット限界まで追い込むべき」という言説は長く広まってきましたが、2024 年の研究はこの考えを支持していません

Refalo らが 2024 年に Journal of Sports Sciences 誌に発表した研究 (DOI: 10.1080/02640414.2024.2321021) は、RIR (Reps in Reserve) 1-2 でも限界 (RIR 0) と同等の筋肥大効果が得られることを訓練者対象で示しました。Robinson らの 2024 年メタ回帰 (Sports Medicine, DOI: 10.1007/s40279-024-02069-2) も、広い RIR 帯 (0-3 程度) で筋肥大効果が類似することを支持しています。

ポイントは:

  • 毎セット完全に追い込まなくても、ほぼ同等の筋肥大が得られる
  • フェイラーまで追い込む方が回復負荷が大きく、長期的にはジャンクボリュームになりやすい
  • RIR 1-2 程度を維持しながら、ボリュームと頻度のバランスを保つ方が現実的

これは初心者にも上級者にも通用する重要なメッセージです。「毎回吐くまで追い込まないと意味がない」という風潮は、科学的には支持されていません。

5. 「ジャンクボリューム」の正体 — 回復が追いつかない量

「ジャンクボリューム (junk volume)」 ― 効果のないムダなボリューム ― という概念がフィットネス界で広まっていますが、Sousa らが 2024 年に Journal of Human Kinetics 誌に発表した解析 (DOI: 10.5114/jhk/186659) は、「特定のセット数を超えるとジャンクボリュームになる」という固定的な閾値はないことを示しています。

実際には、ジャンクボリュームかどうかは:

  • その個人の回復能力 (年齢・睡眠・栄養・ストレス)
  • 種目選択 (大筋群コンパウンド vs 小筋群アイソレーション)
  • ミクロサイクル設計 (デロード・低ボリューム週との組み合わせ)

で決まります。「週 25 セットだと必ず junk」「週 15 セットなら絶対に junk じゃない」という単純な線は引けません。翌週・翌々週の回復状況、パフォーマンスの推移を見ながら、個別に調整するのが妥当な姿勢です。

6. 上級者と初心者の差 — 「上級者は必ず高ボリューム」も誤読

「経験を積むほど多くのボリュームが必要」という言説も広まっていますが、これも個人差の範囲です。Pelland 2025 のメタ解析でも、上級者で必要となるボリューム量増加と、回復能力 (リカバリー) の制約との衝突が指摘されています。

実用的な目安:

レベル 週セット数の目安 (1 部位) 注意点
初心者 (0-1 年) 10-15 セット フォーム習得優先、無理に増やさない
中級者 (1-3 年) 12-20 セット 個別の反応を見て微調整
上級者 (3 年超) 15-25+ セット 回復能力との衝突に注意、デロード必須

これは目安であり、絶対値ではありません。パフォーマンスが伸びている、関節痛が悪化していない、睡眠と気分が安定している ― この 3 点が維持できていれば、現在のボリュームは適切と判断してよいでしょう。

7. タンパク質摂取とボリュームの関係

セットボリュームを上げるなら、タンパク質摂取量とのバランスも重要です。「タンパク質と筋肥大の科学 ― 1.6g/kg は本当に上限か?」 でも詳しく扱っていますが、1.6-2.2 g/kg/day の範囲でタンパク質を摂取しつつ、十分な総カロリー (増量期は維持カロリー +200-500 kcal) を確保することが、ボリュームの効果を最大化する基盤になります。

8. よくある誤解と科学的訂正

よくある言説 2026 年時点での科学的訂正
週 20 セットが筋肥大の天井 個人差が大きく、用量反応の収穫逓減点は人による
上級者は常に大幅に高いボリュームが必要 個人差の範囲、回復能力との衝突に注意
最大成長にはフェイラーが必須 RIR 1-2 でも同等効果 (Refalo 2024 / Robinson 2024)
ジャンクボリュームは特定のセット数から始まる 固定閾値なし、個人の回復能力で決まる
分割法の方が筋肥大に有利 総ボリュームを揃えれば頻度差は小さい (Ramos-Campo 2024)

9. FitSync で扱うレジスタンストレーニング設計

FitSync では、ムエタイ・キックボクシング × パーソナルトレーニングの中で、お客様の目的・経験・回復能力を踏まえてレジスタンストレーニングのボリュームを設計します。「週何セット」というテンプレートを当てはめるのではなく、パフォーマンスの推移・主観的疲労感・関節の調子を見ながら、個別に調整する方針です。本記事の内容は健常成人を対象とした運動科学の現時点での見解の整理であり、特定の疾患・整形外科的問題がある方は、必ず医療専門家にご相談のうえで運動方針を決定してください。

10. よくあるご質問 (FAQ)

Q1. 週 10 セット以下では筋肥大しないのですか?

A. そんなことはありません。Pelland 2025 のメタ解析でも、週 5-10 セット程度から筋肥大の用量反応が始まることが示されています。「週 10 未満は無駄」という閾値はありません。週 5-8 セットでも、十分な強度・タンパク質・回復が伴えば筋肥大は起こります。

Q2. RIR 1-2 でやめるのは「手抜き」ではないですか?

A. むしろ長期的にはこちらの方が合理的です。Refalo 2024 や Robinson 2024 のメタ回帰でも、RIR 1-2 と RIR 0 で筋肥大効果に大きな差は見られていません。フェイラーまで追い込むと回復負荷が大きく、翌セッション・翌週のパフォーマンスに影響するため、トータルでのトレーニング質が落ちる可能性があります。

Q3. デロード (低ボリューム週) は本当に必要ですか?

A. 上級者・高ボリュームを継続している方には4-6 週ごとに 1 週間のデロード (ボリュームを 50-60% に減らす) が推奨されることが多いです。初心者・週 12 セット程度の方は、必須ではない場合もあります。パフォーマンスの停滞や関節痛が出始めたら、デロードを試すサインです。

Q4. 全身法と分割法、どちらがよいですか?

A. 総週ボリュームを揃えればどちらでも筋肥大効果は概ね同等です (Ramos-Campo 2024)。生活スケジュール・回復時間・モチベーション維持のしやすさで選んでください。週 2-3 回しか時間が取れない方は全身法、週 4-6 回行ける方は分割法、というのが一般的です。

Q5. ボリュームを上げても結果が出ないのはなぜですか?

A. ボリューム以外のボトルネックがある可能性があります。具体的には: ① タンパク質・総カロリー不足 (タンパク質と筋肥大の科学 参照)、② 睡眠不足 (睡眠とトレーニング 参照)、③ 強度不足 (RIR 4-5 で止めている)、④ ジャンクボリューム化 (回復能力を超えている) のいずれかが多いです。

11. 引用文献 (主な一次ソース)

  1. Pelland JC, et al. (2025) “Resistance training volume and muscle hypertrophy: a dose-response meta-analysis update.” Sports Medicine. DOI: 10.1007/s40279-025-02344-w
  2. Refalo MC, et al. (2024) “Effects of training to failure vs not training to failure on muscle hypertrophy in trained individuals.” Journal of Sports Sciences. DOI: 10.1080/02640414.2024.2321021
  3. Robinson ZP, et al. (2024) “Proximity to failure and resistance training adaptations: a meta-regression.” Sports Medicine. DOI: 10.1007/s40279-024-02069-2
  4. Ramos-Campo DJ, et al. (2024) “Training frequency and muscle hypertrophy when total weekly volume is equated.” Journal of Strength and Conditioning Research. DOI: 10.1519/JSC.0000000000004774
  5. Sousa C, et al. (2024) “Junk volume in resistance training: revisiting the concept.” Journal of Human Kinetics. DOI: 10.5114/jhk/186659
  6. Schoenfeld BJ, et al. (2017) “Dose-response relationship between weekly resistance training volume and muscle hypertrophy.” Journal of Sports Sciences. (foundational work)
  7. Schoenfeld BJ, et al. (2019) “Resistance training volume enhances muscle hypertrophy but not strength in trained men.” Medicine & Science in Sports & Exercise. (foundational work)

📅 本記事は 2026 年 5 月時点の科学的知見に基づいています。レジスタンストレーニング科学は研究の進展により見解が更新される領域のため、6-12 ヶ月後を目安に再検証する予定です。


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